HOME > ひがしみの昔話 >

ひがしみの昔話

ひがしみの昔話

濃が池〈中津川市坂下中原〉

 昔むかしのことじゃ。濃というものすごく大きな怪物がいてな。そいつが山を崩したり、家を踏みつぶしたり、どえらいいたずらをするんでな。若い娘をささげんと暴れるんやさ。毎年、毎年若い娘を濃にささげておるうちに、とうとう娘は1人しかおらんようになっちまった。その娘を濃にささげたら、濃はその娘をえらく気に入ってさ、娘と一緒に天へ昇って行ってまってな。もうそれからは村へ現れることはなかったげな。
 ところがある年はちっとも雨が降らんでな、ひとったらしも水がのうて、木曽川の水もちょびっとしか、流れんようになっちまった。
 「高峰より水はひっぱってこれんしのう」 「田植えはおくれてしまうし、えらいこっちゃのう」
 「わいら、何かいいこと考えとるかい」 「神坂の湯舟沢へ雨ごいに行ったらどうずら」
 「そりゃあ、いいことずら」
 村々から大勢出て、雨ごいを盛大にやった。それから何時間かたつと、にわかに黒い雲が出てきてな。大きな雷がいくつも鳴って、空は真っ暗になってしもうた。その黒い雲の中から濃が出て来たのよ。左足は山口村に、右足は中原へ、ドスーンとおろすと、細くなった木曽川の水をゴックンゴックンと飲んだ。村人たちは、大きな濃の姿にびっくらして、神様に祈ったり、腰をぬかしたり、大騒動になっちまった。
 そのようすを見ておった濃は、また黒い雲の中へ入って天へ昇っていきよったさ。それからすぐに、雨が降ってきよったのよ。村の人たちは大喜びで、一斉に田植えに取りかかったわさ。濃と神様とが一緒になって、わしらを助けてくれているのかな。
 それからというもの日照りもなく、大きな濃の足跡にも水が溜まって池になったじゃ。


【解説】
 中原地区にあるこの濃が池は、池といっても窪んだ湿地で、何百年、何千年も草が生えては枯れ、枯れては生えて3メートルも4メートルも重なっているといわれています。これは、古代の噴火口であったのではないかといわれ、県の遺跡の指定にもなっています。その昔、この地区では水不足で困り、水がほしいという人々の気持ちが、こうした伝説を生んだといわれています。