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ひがしみの昔話

ひがしみの昔話

小町井戸〈中津川市下野〉

 下野の白山神社の山裾に池があつて、その奥に自然のわき水がこんこんと吹きだ出し、夏の暑い太陽がギラギラ照りつけるときでも、その水はとっても冷たかったそうです。
 そのそばを通っている道は、飛騨と美濃の二つの国を結ぶ街道だったので、昔は大勢の旅人が通りました。
 昔々のことです。とっても暑い夏のことで、五助というお百姓が汗だくだくで、ちょっと冷たい水を飲もうと、その泉のところへやって来ました。見ると、一人の旅の女が、ちょうど汗とほこりで汚れた顔を、その泉の水で洗っているところでした。
 やがて女は、顔を洗いおわるとお化粧をしました。それから、しばらく泉に映る自分の顔を眺めていましたが、やがて、くるりと振り返ったので、後ろにいた五助とばったり目が合いました。
 「アッ。」と、思わず五助は息を呑みました。その女のなんと美しかったこと。まるで天女のように気高く、光輝くように見えました。
 その上お化粧の匂いが、今まで一度も嗅いだことのない、何とも言えないいい香りでした。
 五助がぼうっとして突っ立っているうちに、もう女の姿はありませんでした。「あれはきっと、都で美人として評判の高い小野小町に違いない。」
 村へ帰ってから、五助がそう人々に言い触らしたので、その泉のことをみんなが「小町井戸」と言うようになりました。それから不思議なことに、男の子のシンボルのような形をした石を拾ってきて、その泉の水を掛けてお祈りすると、願いごとが叶うようになったということです。


【解説】
 小野小町は平安時代前期の女流歌人、六歌仙の一人。日本一の美貌と言われ、全国各地に小町伝説がある。
 福岡町下野の小町井戸には、以前は30体以上の男性のシンボルの形をした石棒が供えられていたという。これは縄文時代の石器で、呪具と考えられている。現在では数体が保管されている。