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ひがしみの昔話

ひがしみの昔話

ズイトンさんの狐膏薬〈中津川市落合〉

 むかし、山中の医王寺にズイトンさんとみんなから親しまれる、気のいい和尚さんがおられました。あるとき、庭掃除をやっておると、本堂の裏の方から何やら苦しそうな泣き声が聞こえてきます。どうしたことだろうと裏へ回ってみると、何と1匹の狐がいかにも苦しそうにうなっています。狐をそっと抱き上げて見ると、足に大きなとげが刺さっています。
 「こんなに血が出て痛かったろう」とズイトンさんが大きなとげを抜いてやると、狐はうれしそうにびっこをひきながら、山の中へ帰っていきました。
 それから、しばらくした風の強い晩のことです。だれか、玄関の戸をしきりに叩く者があります。ズイトンさんが戸を開けてみると、この間の狐がちょこんと座っています。
 「和尚さん。この間はどうもありがとう。おかげで傷はすっかり治りました。和尚さんは腰が痛くて困っているようですから、御礼に、良く効く膏薬の作り方を教えてあげましょう」そういって、狐は膏薬の作り方を、繰り返し、繰り返し、ていねいに教えてくれました。
 「まず、マムシグサの根っこのまあるい奴をすり潰す。そこへオオバコの種とキツネノマゴの葉をすり潰して混ぜる。次はモーチを入れて良く練り合わせる。それと油を布切れに塗り付けて、痛いところに張れば、たちどころに痛みが取れます」
 ズイトンさんは汗びっしょりになって、寝床の中で、この話を何回も何回も繰り返して言わされました。ズイトンさんが一口いうと、狐が枕元で頷くというふうでした。「夢であったか」明るくなって目が覚めても、ズイトンさんは膏薬の作り方はよく覚えていましたので、まもなくズイトンさんの良く効く膏薬の話は大評判になって、わざわざ遠くの方から買いに来る人もあるほどです。


【解説】
 山中薬師で親しまれる瑠璃山医王寺は落合川の下桁橋からしばらく登ったところにあり虫封じ薬師として、蟹薬師、蓬莱寺とともに日本三大薬師の1つとして信仰を集めています。
 薬師如来は行基作と伝えられています。この寺に伝わる狐膏薬伝説は十返舎一九の「木曽街道続膝栗毛六編」にも登場します。