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ひがしみの昔話

ひがしみの昔話

後ろ向き薬師様〈中津川市東宮町〉

 千年もむかしの話です。神坂峠のあたりは、長い道のりに一軒の家もなく、雨が降っても、雨宿りするところもなく、旅人は大変な苦しみで、途中で死んでしまう人もあったそうです。そこを旅のお坊さんが通りかかりました。このお坊さまは京都に延暦寺という立派なお寺を作られた、伝教大師でありました。天台宗という尊い教えを広めようと旅に出られたのです。
 「旅人の難儀をお救い下さい。」と、高さ1メートルぐらいの立派な薬師如来像を作って、峠の登り口に立てられました。
 あるとき、馬に乗った武士がここを通りかかりました。すると、どうしたのか、馬はここから一歩も進みません。「早く行かんか。ソレッ!」と、鞭を打ちました。すると馬は「ヒヒーン」と棒立ちになって、武士を振り落とし、どこへともなく走り去ってしまいました。その後も馬でこの薬師如来の前を通りかかると、みんな同じような目に遭い、馬から振り落とされて、けがをする人もありました。
 「尊い如来さまだから、失礼なことをすると、お怒りになるのだろう。」と、村人たちは考えて、薬師如来さまを後ろ向きにしました。
 それからというもの、馬で通りかかっても、振り落とされることはなくなったということです。きっと、如来さまの後ろを通るようになったからでしょう。この如来さまは、今は中津川市内のお寺の御本尊になっていますが、残念ながら後ろ向きには立っていませんよ。


【解説】
 伝教大師(最澄)は、中国へ渡り天台密教を学び、比叡山の山頂に寺を建てた人。専ら経典の研究に打ち込んだ人なので、地方にその伝説が残るのは珍しい。
 この像は現在、市内東宮町の東円寺にあり、国の重要文化財に指定されている。像高51.5センチで、製作当時の金漆塗りがしのばれる。いつもは奉安堂に祭られているが、年1回、4月1日に開帳される。