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ひがしみの昔話

ひがしみの昔話

おやつ〈中津川市千旦林〉

 おやつという名前の女の子がおった。それはそれは美しい女の子であったわい。色白で、目もとがすずしく、とろけるようなかわいらしい子じゃったのう。
 八幡神社の参道には1人ではかかえきれないほどの、杉の木が並んでおってな、子供達のいい遊び場になっておった。その参道の途中には清水がわき出しておる井戸があってな、お参りの人たちが口をゆすいだり、てを洗ったりする場所で、「祈願所の井戸」と呼ばれておった。
 子供達は遊び疲れるとその水を飲んだりしたものじゃ。
 おやつはその水に自分の顔を映しては、「どうぞ神様、わたしを美しくして下さい。」と祈っておった。
 村ではだれもがおやつが村で一番美しいと言っておったが、おやつの願いはそれだけでは満足できなかった。
 「どうか神様、わたしを日本一の美人にして下さい。」水に映る自分の顔を見ながらそう祈っておった。
 ある日のこと。いつものように、おやつが水に映る自分の顔を見ながら祈っておると、風がすうっと吹いてきて、水に細かい波がたった。すると、映っていたおやつの顔が、しわくちゃのおばあさんの顔になった。おやつはじぶの年をとったときの顔を見たような気がして、こわくなった。魂が抜けたようにふらふらと立ち上がると、山の中へあてどもなく歩いて行った。
 「おやつがおらんぞ。」「神かくしじゃぞう。」村中の人たちがおやつを探しに山へ入って、探し求めたが、どこへい行ってしまったのか、どうしてもおやつを見つけだせなかったのじゃ。


【解説】
 世界一の美人になりたいという話の最も有名な童話は「白雪姫」がある。「鏡よ鏡、世界一美しいものはだれだ。」と鏡に聞くと、鏡は「白雪姫です。あなたは二番目に美しい。」と言う。この千旦林の話しでは水鏡で、日本にはガラスの鏡がなかったことによる。自分が日本一の美女でありたいという伝説は日本では珍しいものである。