HOME > ひがしみの昔話 >

ひがしみの昔話

ひがしみの昔話

土の中を歩く〈恵那市武並町〉

 武並町藤に深い深い深田があります。むかしむかしの話です。ある人がその沼田へ入ると、ずぼずぼと頭のうえまで沈んでしまいました。
 両手で泥をかき分けて、泥の隙間を作って息を吸いながら、「しまった、しまった。こういう深い田んぼへ入るときは、板を渡して、それに乗るようにして、はいらにゃいかなんだわい」と後悔したけれど、はいってしまった今ではもう遅いのです。
 「ええい、めんどくさい。この泥の中を歩いて行けるとこまで、歩いて見てやれ」
 その人は、そんなひとりごとを言いながら、泥をかき分け、かき分け、泥の中に埋まりながら一生懸命で歩き出しました。
 眼に泥がはいるので、眼をつむって、両手で泥を掻き分け、もがくように進んで行きます。時には高くなって、出られそうになったり、また低くなってがっかりしながら、土のなかを進んで行きます。
 だいぶ長いあいだ歩いたところで、やっと底が高くなって、日がかんかん当たっている外に頭が出て、全身がずぼんと外に出ました。
 泥の中から、泥まみれの人が出て来たので近所で働いていた人たちも集まって来ました。
「ここは、どこじゃえも」と人々に聞くと、「ここか、ここは釜戸の荻の島じゃ」「あれ、そんなら、おれは権現山の下をくぐってきたことになるわけじゃな」と、ふしぎそうに腕を組んで、考えておったそうです。


恵那市三郷町より権現山を望む
【解説】
 潮来(いたこ)は利根川の三角州で水郷地帯。むかしは舟で田植をしたという。今では農地改革により、そういう深田はなくなった。