HOME > ひがしみの昔話 >

ひがしみの昔話

ひがしみの昔話

笠置山の大カマさま〈恵那市中野方町〉

 笛や太鼓の音が聞こえて来ます。「ピーヒヤラ、ピーヒヤラ。ドンドンドン」お祭りでしようか。
 ヘビやカエルや天神さまなど、作りものを持って、大勢の村人たちが行列を作って出て来ました。どうも変です。お祭りにしてはみんなちっとも楽しそうにしてません。みんな疲れ切ったようすで、目には必死の思いがこもって、時々天を仰ぎます。手を合わせて拝んでいる人もあります。
 「これでも雨が降らなければ、いよいよ笠置山のおカマさまをお借りしなければなりませんな。のう、法印さま」。
 村の長老藤右衛門さんが白い髭をしごきながらそう言うと、隣にいた清宝院の法印さまが大きくうなづいて言いました。
 「そうですな。もう六十日もひとつたらしも雨が落ちませんからね。ですが、あの大カマさまを持ち出せば、だいじようぶ、雨は降りますて。私もしっかりお祈りいたします。」
 この人たちは雨ごいのお祈りをしていたのです。
 今日も笠置山には雲一つなく、この分ではまだ当分、雨は降りそうにありません。まだ植えて間もない稲は、田んぼに水がないので、黄色くなっているのがだいぶんあります。
 この中野方には笠木大権現の里宮、清宝院があって、そこに笠置山を開いたときに使つたという大きなカマと、普通のカマとが仕舞ってあります。雨が降らないときにはこれを持ち出してお祈りすれば雨が降ると、昔から伝えられているのです。今、その時期が来たようです。
 大カマさま、おカマさま、どうか雨を降らせて下さい。


【解説】
 笠置山(一一二七.九m)の麓一帯には五十余の縄文遺跡があり、数々の土器、石器が出土する。願いをかけた立石(メンヒル)なども残されている。
 笠置山は周囲に住む人たちに、はかり知れない恵みと、知恵と、そして恐怖をも与えたものと思われる。この畏敬の存在が雷雲を生む山として、心の奥に伝わり、「雨ごい」「出産」を願う笠置山への祈りとなったものであろう。