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ひがしみの昔話

ひがしみの昔話

轟薬師〈恵那市山岡町〉

 月のない、暗闇の夏の夜でした。その真暗闇の夜空に、南の方から、ぼうっと明かりがさして来ました。
 和田の里の人々が驚いて空を見上げると、その明かりは火の玉となって飛んで来て、和田の里の山手に、輝きながら落ちて来ました。
 里人たちは、何事であろうと、その落ちたところへかけつけて見ると、墨を流したような暗闇の中に、明かりがさしていて、よく見るとそれは、薬師如来のお姿に見えます。
 村人たちは怖れおののいて、合掌し「南無薬師如来様」と、称名を唱え、その場にひれ伏して礼拝しました。
 そのうちに、如来様のお姿は、闇の中に消えてしまいましたが、そのあとに、高さ1尺2寸(36cm)ほどのこのあたりでは見なれない石が残っていました。「これこそお薬師様のお姿を秘めた、ありがたい仏の石に違いない。南方三河国に鳳来寺という貴いお寺があるそうな。そのお寺の仏様が石になって飛んで来て下さったのだろう。何としてもありがたいことじゃ」と、お堂を建てて、その仏の石をまつりました。
 その後、和田の里のうちで誰かが亡くなると、薬師堂の鐘が、ひとりでにカーン、カーンと鳴り響くようになりました。
 こうしたことから、いつの間にか轟薬師と呼ぶようになりました。
 それから後、村人たちは石の仏様は御本尊様として扉の奥に納め、お前立てとして、脇侍の12神将や、日光、月光菩薩を従えた、立派な薬師如来像を京の都から取り寄せてまつり、厚い信仰を続けて来ました。


【解説】
 薬師如来12の大願を立て、人々の病患を救うとともに悟りに導くことを誓った仏。古来、医薬の仏として信仰される。像は通例、右手に施無畏印を結び、左手に薬壺を持つ。脇侍に日光菩薩と月光菩薩、眷属として12神将が配される。薬師瑠璃光如来 東方浄瑠璃世界の教主。