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ひがしみの昔話

ひがしみの昔話

一杯清水〈恵那市上矢作町漆原〉

 今から500年くらい前の話です。高遠の城主秋山信友が家来をひきつれて岩村へ攻めて来ました。これに対して明智の城主遠山景行を総大将として、上矢作の4つの砦に立てこもり、待ちうけました。
 前田砦に向かって攻めかかった秋山勢は20人ぐらいの小勢でした。砦の兵士たちは秋山勢は武田信玄の家来ですから、武田の鉄騎隊として恐れていました。それがこんな少ない軍勢にすっかり馬鹿にしてしまいました。まもなく敵は逃げ始めました。砦の兵隊たちは砦を出て追いかけました。どれくらい追いかけたでしょうか。山に隠れていた敵兵が姿を現しました。何十倍もの敵兵に周囲をかこまれ、砦の兵は降参するしか仕方がありませんでした。
 遠山景行の本隊は向井戸砦にありました。敵は前後を囲んで攻めたてました。「もはや、これまで」と景行は少数の見方に守られて、裏山から、明智を指して逃れ出ました。
 追いすがる敵を突き伏せ、切り倒しながらだいぶ山を登ったところで、景行が槍の柄でトンと地面を突いたときです。不思議なことに、雪の間から清水がこんこんと沸き出るではありませんか。
「ありがたい。天の助け。」
 景行は清水を両手ですくって飲み、喉の渇きを癒しました。からだ中に力が漲ってくるように感じ、また追いすがる敵を突き伏せました。
 この遠山景行が喉を潤した清水は、今でも涸れることなく、山の尾根にありますのに、水をたたえています。


【解説】
 元亀元年(1570)12月28日のことである。明照砦、前田砦、阿寺砦、向井戸砦の4つがある。年号については別の説もあるが、それによると岩村城を秋山が手中に納めてから後での戦いとなる。戦いには兵糧の運搬など農民の手を借りねばならず、農閑期に行うのが当然であった。