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ひがしみの昔話

ひがしみの昔話

杣の木〈恵那市山岡町〉

イラスト  上手向の「あまらび」から久保原の「下ヶ洞」「いり」を通って「北洞」へ抜け「中西」の前へ出る道がある。土地の人はこの辺りを「杣の木」と言い、昭和の初め頃までは「山犬が出る」と言って恐れた。
「山犬ちゃあ、きつねのこと」
「山犬ちゃあ、おおかみのこと」
 こわごわ聞く子どもの言葉に、 「いいや、山犬は山犬、一言にいやあ普通の犬より、どえらい大きい山の中におる犬のことだわ」と、助じいさんは言った。 「山犬が人間を狙うときは、絶対足音なんか立てん。そうっとどこからかついて来て、急に小石や赤土なんかを、ばらばらっとかけちらしてきたり、人間のまわりを何べんも飛び跳ねたりする。そうすると人間はだんだん目がまわって来て、ばったり倒れてしまう。それを狙って喰い殺すわけだ」
 助じいさんは、子どもたちの顔を一人ひとり見回しながら、一息ついてから、 「山犬がついて来たときは背中がぞくぞくっと寒気がするでわかる。そういう時は火打ち石で火を出したり、たばこを吸うとええ。動物は火を恐がるもんだ」
「おじいさんにも、山犬がついて来たことある」
「うん二へんばかあったなあ、いっぺんなんか石だか砂だかまざったようなやつを、ものすごい勢いでまきちらしゃあがって、その時は、こりゃあいかん喰い殺されるかも知れんと思って、あわててたばこに火をつけた。何本も何本も吸いからかいた。気がついたら、もう山犬はおらなんだが、あの時はおそがかった」


上手向から久保原へ抜ける小道
【解説】
 そういえば、助じいさんは、いつ見てもきせるをくわえていて、体からも着物からも、たばこのにおいがしておった。 そいで男衆はみんなきせるや、たばこ、マッチを何時も山ばんてんのふところや、背ごの中に入れて持ち歩くわけだ」