大井のエノキ〈恵那市大井町〉

 

 昔、恵那の大井に巳之助という大泥棒がおりました。金持ちの家からたくさん盗んでくると、それを、暮しに困っている人のところへ置いていくのです。
 役人は何とかして巳之助を捕えようと思いましたが、いつも上手に逃げ廻って、捕えることができませんでした。
 捕えても、盗んだものを持っていないので仕方がありません。盗むところを見つけて捕えねばなりません。
 ある晩のこと。金持ちの家の塀を乗り越えようとするところを、役人達が張り込んでいて捕まえました。
 取り調べがすんで、石責めの刑となりました。巳之助を、阿木川の榎に固く縛りつけ、役人達は大小の石を思い切り投げつけました。
 ところ構わず石をぶつけられる巳之助は、人の声とは思えぬような声で叫んでいましたが、縛られたまま、血だらけになって息が絶えました。
 その後、大雨が降り続くたびに、阿木川は大水になりました。長年にわたって、いつもいつも氾濫して、大井の人達は大変困りました。
 巳之助を、あんなむごい殺し方をしたものだから、その祟りではないだろうかと、人々は言い出しました。榎の下に社を作り、巳之助の霊をだいじにまつりました。
 すると、どうでしょう。
 あれほど毎年氾濫に苦しめられた大井の人々にはウソのように、阿木川はほとんど氾濫しなくなりました。

 
 

【解説】

 後になって、堤の改修工事のとき、榎が石垣にかかるので、切ってしまおうかという話が出た。けれども、切ろうとする人が、つぎからつぎへと病気になったので、今もそのまま石垣のところに生えている。
 同じような義賊に鼠小僧次郎吉がある。彼は大名屋敷だけに忍び入ったといい、小説・講談・戯曲などに多くとりあげられている。