昔の木曽川〈恵那市笠置町〉

 

 大河原という大きな河原があり、その川しもにカンランベ岩を囲んで淵がありました。
 急流が大きな岩にぶち当り水が逆流してうず巻きをつくり、今にも「カンランベ」が出て来そうな気味の悪い深い淵でありました。子供の頃、河童のことを「カンランベ」といって大変おそれていました。「カンランベ」はこんな淵の底にいて、子供たちが泳ぎにくるとつかまえて「しんのこ」(肛門)から血を吸い出して呑んでしまうというお話を大人達から聞かされていました。大抵の横着坊主でも「カンランベ」の住んでいそうな淵では泳ぎませんでした。
 カンランベ岩の所は川巾が一番狭くなっていて、石を投げると対岸にとどく程でした。
 昔の子供は妙に隣村の子供たちと出会うとけんかをしたものでした。
 河原で遊んでいても対岸に子供の姿を見つけると「久須見のサンタ、せご背負って参れ」(久須見の坊主降参して来い)と大声でどなります。すると向こうも負けておらず「むかいのサンタ、カンランベ」(姫栗の坊主はカンランベに呑まれてしまえ)と、言いかえし、すぐ石の投げ合いが始まります。日が暮れるまで口げんかをしました。
 やっと家に着くと今度は家で「川にそんなにやっとう遊んでおるとカンランベに呑まれてしまうぞ」と、又叱られたものでした。
 カンランベ岩の対岸に「ほこ巻き」という大きな巻があります。
 ここは大出水のとき物すごいさか巻が出来て上流から流れてきた河ゴミが何もかも引っかかり、それはそうましい所です。

 
 

【解説】

 昭和十一年、飯地町岩浪に笠置ダムが出来て、笠置橋の下まで水がつかり、カンランベ岩などはすっかり湖底に沈んで見えなくなった。時折、笠置ダムの修繕工事などで湖水が引くと「カンランベ岩」「かぶと石」「ぬす人石」などが湖底から姿を現す。