乙姫ぶち〈中津川市福岡〉

 

 戦国時代のお話しです。
 広恵寺城というお城がありました。このお城に佐久弥姫という、それはそれは美しい娘がおりました。目がぱっちりとして色が白く、笑うとえくぼがかわいくて、みんなから絶世の美人だと言われていました。お嫁入りの話はありましたが、武将の娘ですから、そう簡単にはには決まりません。佐久弥姫の夢は膨らんでいました。
 ところが、その夢もふっとんでしまうような大変なことが起こりました。この広恵寺城へ敵が攻めてきたのです。激しい戦いになりましたが、とうとう負けてしまい、城は焼けおちてしまいました。植苗木から飛騨へ行く道を、佐久弥姫はは2人の供をつれて城から逃れ出て行きました。逃げて行く3人の姿はとても哀れでありました。
「私は用を足してから行きます。先に行って待っていて下さい」と、佐久弥姫が言って供の者を先に行かせ、姫は1人になると、羽織を松の木に掛け、ザブンと滝壺に飛び込みました。
 供の者があわててむ「姫様!」と呼んで捜しましたが、もう答えはありません。
 何日か過ぎた夕方、旅人がこのあたりを通りかかると、滝壺から上半身を現した亡霊が「どうぞ父や母を助けて下され」と言ったそうで、あわてて逃げてきました。そのほかにも、何人も幽霊を見た人があったので、村人たちは姫の霊を慰めようと、この滝壺にお経の本を沈め、ここを乙姫ぶちと言うようになりました。それからは幽霊が出なくなったそうです。

 
 

【解説】

 植苗木に広恵寺という立派な寺があって、城はその後ろの山の上にあったという。城が根という地名が残っている。滝を乙姫滝といい、お経を沈めたので「お城が淵」ともいう。羽織を掛けた松を「袖掛けの松」といい、松の根方にそう書いた石碑がある。松は現在のは三代目であるとう。