馬糞饅頭〈中津川市付知町〉

 

 下向きの源三は、中山の平でたきものを伐って晩方、家に戻ろうと、休み場までおりてきました。すると、ずっと先の方を狐が歩いて行くのが見えます。
 「これは人を化かす年寄り狐じゃ。俺は化かされんぞ」と思って狐の後をついて行きました。
 狐は妙な格好をして娘に化けました。道ばたの木の葉を取って重箱を作り、道に落ちている馬糞を拾って饅頭に変え、重箱いっぱいにつめると、朴葉の葉を取って風呂敷にして、重箱を包みました。
 やがて、お寺の近くまでおりてくると、狐の娘は着物のすそをつまんで、えらくすましこんで重箱を抱えなおし、平助の家へ向かって行くではありませんか。
 娘は一間戸を開けてすーっと中へ入りました。
 慌てた源三は戸の隙間から中を覗きこむと、平助が「えらいすまんこっちゃのう」と言って、重箱を開け、饅頭を口へ持って行きかけました。
 「食っちゃだちかん、そいつは馬糞やぞ!」と大声で知らせましたが、平助はうまそうにむしゃむしゃ。
 話かわって、倉屋の政市は仕事を終わってお寺のそばへ来ました。
 向こうで何かどなり声がするので行ってみますと、源三が馬の尻の穴に顔をひっつけて覗きながら、「食っちゃあだちかんぞ、そいつは馬糞やぞ」とどなります。
 政市は後から源三の背中をどんと叩き、「こりゃ、ええ加減に目をさませよ。はよう家へ行かんと暗うなるぞ」と言って聞かせました。
 狐に化かされまいと思った源三は、いのまにやら化かされていたのです。
参考文献『付知の民話』

 
 

【解説】

狐は年をとると人を化かす。人間も長生きできるようになったら、このように文明を発達させました。もしも「死の灰」が地球上をおおい、5〜6年しか生きられなくなったとしたら、人間の文明はたちまち崩れ去り、原始時代よりもっと悲惨な状態にないでしょう。生殖は本能的に早くなり、1歳で子供を生むでしょうが、裸のままで、寒冷地では生きられないでしょう。