尾巻き〈中津川市坂下〉

 

 ある冬の日暮れに、一匹の腹ぺこのサルが、木曽川の川原へ降りて来ました。サルが何か食べる物はないかと、見回していると、魚を焼く臭いがして来ました。サルが行ってみると、カワウソが魚を焼いていました。
 「すまんが、魚を一匹くれんか」とサルが頼むとカワウソは「お前は俺が『栗くれ』と頼んだがくれんかったじゃないか」といいました。がっくりしたサルは、「そんなら、魚をとるやりかたを教えてくれんか」と頼みました。
 カワウソは魚をうまそうにほうばりながら、「そんなら、しゃあないで教えてやるわ。寒い夜になぁ、木曽川の冷たい水に尻尾をつけておると、夜が明ける頃に、何か尻尾が重たくなってくる。そうしたら、力一杯尻尾を抜け。するとたくさん魚がとれる」。
 これを聞いて喜んだサルは、岩のそばにぽつんと座って、尻尾を川の中へ入れてみました。寒くて寒くて尻尾がちぎれそうになりましたが、それでもサルは川から尻尾を抜こうとしませんでした。
 夜が明けてあたりが明るくなってきました。サルは尻尾を引き抜こうとしましたが、重くてなかなか抜けません。今度は思いっきり腰を上げて引き抜きました。
 プッツンという音がして、何か軽くなったようです。よく見ると、凍った川の中に、茶色のものがあります。それは魚ではなく、間違いなく自分の尻尾でした。
 やがて、川の氷が解けて、サルの尻尾は渦に巻かれて、ぐるぐると回りはじめました。
 今でもその場所は「尾巻き」と呼ばれているそうです。

 
 

【解説】

かわうそ=イタチ科の哺乳類。体長約七十センチ、尾長約五十センチ。川や湖の近くにすみ、体は流線形をなし、上面が暗褐色、下面が淡褐色。尾は基部が太く、指の間に水かきがある。巣穴は乾いた陸上にあるが、主に水中で活動し、魚・カニなどを捕って食べる。夜行性。日本では四国の一部を除いて絶滅。特別天然記念物。(「大辞泉」より)