ぐつの話〈恵那市東野〉

 

 昔、山の中の家に、母様と兄様とぐつという男の子が住んでいた。ある日兄様がぐつに裏山にワナがかけてあるから見てこいと言った。ぐつは見てきて、「隣の鶏がかかっておった。そいで逃がいてやった。ケン、ケンと鳴きながら逃げてったわ。」
 「ぐつ、おんしは何ちゅうたわけじゃ。そりゃあ、鶏じゃのうて、キジという鳥じゃわ」
 次の日もワナを見てきて、隣の牛の子だと思って猪を逃してしまったので、兄様は怒って、「ワナのまま引っぱってこい。」と言った。
 次の日には薪木を取りに行った母様が、ワナにかかっていた。「外すと兄様に怒られる」と、引っ張って帰る途中、痛みと疲れで母様は死んでしまった。
 「葬式を出さんならんでおっさまを呼んで来い。黒い衣を着て、お経を読む人じゃ」
 ぐつは牛小屋の中に黒いものがいるので、「来てくれ」と言うと「もうー」と鳴いた。兄様に「もういやじゃと言わした」と報告すると、「それは牛だ。おっさまはお寺におらっせる」と兄様は教えた。お寺へ行くと烏が木の上にいた。頼むとカアカアと鳴いた。
 「おっさまは俺が行ってくる。ぐつは飯を焚いておけ」と兄様が言った。飯を焚くとお釜が「ぐつ食った。ぐつ食った」というので、怒って石の上へ投げると「くわん」とお釜が割れた。
 おっさまが風呂へ入ると、まだ下の方は水だったので「何でもええで早よくべてくれ」とどならした。そして風呂から出たときには着ものも、衣も、みんな風呂にくべちまって、何にもなかったという話じゃ。

 
 

【解説】

 落語の与太郎の話である。こういう話は文章の一語一語が重要な意味を持っているので、縮めることができない。それをあえて縮めてしまったので、面白さが半減してしまって申しわけない次第である。