ネコ塚 ネズミ塚〈恵那市大井町〉

 

 昔、長国寺に古い大きな鼠がいました。夜は本堂から庫裡から、お寺じゅう荒し回って手がつけられません。昼は天井裏の巣の中で、お寺じゅう聞こえるほどの大いびきをかいて寝ているというありさまです。
 ある日和尚さまは、鼠がひとり言をいっているのを聞きました。
 「長年この寺に住んでおるが、寺じゅう荒らし回ったためか、食うものがのうなっちまった。しかたがないで、今夜は一つあの坊主をかじってやるか。あの坊主は油が乗り切っておって、うまそうじゃわい」
 和尚さまは腰の抜けるほどびっくりしました。腕を組んで考えました。すると、ふっと名案が浮かびました。
 「御嵩屋に大きいきつい猫がおる。あれを借りてきて、鼠と戦わせてやろ。あの猫なら鼠退治ができるかも知れん」
 御嵩屋へ行って、わけを言って頼むと、御嵩屋では、二つ返事で猫を貸してくれました。
 夜がふけて、あたりが静まりかえると、古鼠の足音が聞こえてきます。襖のかげから御嵩屋の猫が飛び出してきて、鼠に襲いかかりました。鼠も負けてはいず、鋭い歯をむき出して猫に向かっていきました。こうして猫と鼠の壮絶な戦いが始まりました。その物音は大井の宿場じゅうに響き渡るほどでした。やっと明け方になって静かになったので、和尚さまが行ってみると、二匹とも血だらけになって死んでいました。
 和尚さまは涙を流し、裏山に猫の塚を築き葬ってやりました。また最後まで戦った鼠の塚も築いて後生を弔ったといいます。

 
 

【解説】

 そのころ大井長国寺の住職は元倫和尚であった。御嵩屋は後の城ヶ丘保育園の下にあった。
 猫塚と鼠塚は、今も長国寺の寺山に残っている。