二人の侍〈中津川市坂下上外〉

 

 むかし、臆病者と気の強い者と二人の侍がいました。二人は氷餅の様子を調べに行かされました。小屋の近くに来ると、「お前先に調べてこい」とお互いに言い争って譲りません。そこで、腕相撲で勝負をつけることに決めました。臆病侍は始め優勢でしたが、力が尽きて負けてしまいました。
 仕方なく臆病侍は一歩毎に振り返り、やっと小屋に着くと、建てつけの悪い戸を開けてのぞきました。すると中には白い蛇が赤い舌を出して、こっちを見ていました。臆病侍はすっとんで逃げて来ました。
「白蛇なんか居るもんか、よく見てこい」
「貴様こそ行って、よくよく見てこい」
 今度は気の強い侍が行って見ると、白蛇なんかどこにも居ません。
「嘘吐きめ。侍の恥知らずだ」
「拙者は嘘など言わぬ。本当に見たのだ」
喧嘩しながら池のそばまで来たとき、二人は刀を抜き、斬り合いになりました。
 そこへ猟師が通りかかり「立ち合いを頼む」と言われました。猟師は驚いて尻餅をついて震えていましたが「お立ちい」と大声で言ったきり、一目散にわが家へ帰ってしまいました。それからうすきみ悪くて、山へ行こうとせずにいましたが、何か月か過ぎたある日、好きな猟がしたくなり、池の近くまで雪を踏みしめて来ると、二人の侍は雪をかぶってその儘立っていました。驚いた猟師が「お引きい!」と言いますと、骨になった二人の侍は、カラカラと雪の上に崩れ落ちました。それで、その池を勝負が池と呼ぶようになったそうです。

 
 

【解説】

氷餅=カビが生えるのを防ぐために、寒中に凍らせた餅。長野県大町地方の名産。夏でも涼しい場所に保存してあるので、暖地を好む蛇がそこに居たとは考えられないので、臆病な侍の見間違いの可能性が高い。この物語は「秋も深まった頃」とかいてある点など見ると尚更である。