岡瀬沢のキツネ〈恵那市大井町〉
「うちのおとっつあま、知らっせんか。まんだ帰っておいでんが」かかさまが一生懸命とっつあまを探しておりました。
「お前んとこのとっつあまか。さっき、そこの坂道を登っていきょうらしたがなあ。黙って、とっとと登っていきょうらした」その男はそう言って坂道を指さしながら教えてくれました。
かかさまは教えてもらった通り、その坂道を登って行くと、山の中腹のお墓に出ます。
秋の夕日が西の山に沈み、あたりは暗くなって来ました。その中で、石碑に羽織を着せたり、脱がせたりして、しきりに拝んでいる人影がありました。その人影はとっつあまに間違いありません。
「とっつあま。とっつあま」かかさまは大声で呼びましたが一向に気づく様子もありません。そこでかかさまは、そばへ行って、背中を思いっきり叩きました。
「おう、びっくりこいた」
「お前んとこのとっつあまか。さっき、そこの坂道を登っていきょうらしたがなあ。黙って、とっとと登っていきょうらした」その男はそう言って坂道を指さしながら教えてくれました。
かかさまは教えてもらった通り、その坂道を登って行くと、山の中腹のお墓に出ます。
秋の夕日が西の山に沈み、あたりは暗くなって来ました。その中で、石碑に羽織を着せたり、脱がせたりして、しきりに拝んでいる人影がありました。その人影はとっつあまに間違いありません。
「とっつあま。とっつあま」かかさまは大声で呼びましたが一向に気づく様子もありません。そこでかかさまは、そばへ行って、背中を思いっきり叩きました。
「おう、びっくりこいた」
そう言って、とっつあまはかかさまの顔をじっと見て「なんじゃおんしか。何しに来たよ」
「何しに来たちって、お前さまこそ、何しょうらしたよ」
「何しようたって、ここはどこじゃよ」
「お墓じゃないかなも」
「お墓か。おれはここへ何しに来たのかな」
「お前さまはきっと狐に化かされさしたわ」
「そうか、狐に化かされたかも知れんなあ」
とっつあまは、そういって大声で笑うのでした。
「何しに来たちって、お前さまこそ、何しょうらしたよ」
「何しようたって、ここはどこじゃよ」
「お墓じゃないかなも」
「お墓か。おれはここへ何しに来たのかな」
「お前さまはきっと狐に化かされさしたわ」
「そうか、狐に化かされたかも知れんなあ」
とっつあまは、そういって大声で笑うのでした。
【解説】
人には狐に化かされ易い性格の人があって、そういう人は簡単に化かされてしまうそうである。足腰の立たない寝たきりの人が、狐に化かされて立って歩いたという話も伝えられている。女の人が化かされたという話はあまり伝えられていない。女の人は化かされない性格なのかも知れない。